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インターネットとラジオから見る広告市場の変動

 ※この記事は、電通が発表したニュースリリース「2018年 日本の広告費」から画像・データを引用しています(http://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0228-009767.html)。

広告費の変動を見る

 皆さんはテレビCMを見ている時間とインターネット広告を見ている時間のどちらのほうが長いと思われるだろうか。あるいは、それを意識してみている時間はどちらのほうが長いだろうか? それを考える上で重要なデータがある。
 広告費の変動である。
 今年は、いままで多数派だった地上波テレビによる広告がインターネット広告に逆転されるという観測が多くある。アメリカでは既に逆転済み。

www.nikkei.com

forbesjapan.com

 私はそういったメディアを取り巻く現状について学んでいる最中の人間で、こういうことも授業で学んでいる。その中でも興味深いのが、次の図表である。

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2018年のメディア種別広告費

 すでに雑誌メディアは減少に転じている。テレビの広告費も何もしなければ上がることはない。ラジオに関しては、減少したが下げ止まったかのように見える。
 インターネットを利用したラジオサービス「radiko」の「月間ユニークユーザー数とプレミアム会員数が堅調に増加」したことによる規模拡大による影響ということで授業ではケリを付けていたが、ちょっとこの展望には違和感がある。

 radikoにより、地方局の隠れた名番組の発掘や、アーティストによるラジオ番組の力が強まった点は評価できる。だが一方で、ラジオ局そのものの地盤はやはり苦しいと言わざるを得ない。どこの局を聴いていても、引っ越し・車買取・法律事務所・薬・ライブ宣伝・番宣、というラインナップがスポットCMの定番だからだ。別の言い方をすると、平常時にスポンサーに付いてくれる企業がこれだけしかいないのだ。
 これは果たしてradikoにより市場規模が広がった、もしくは狭まるのが止まったと言えるのか。

radikoだけに頼っていてはいけない

 この問題を紐解くときにヒントになりそうなことが2つある。上の図表にある「インターネット広告費」の中の「ラジオデジタル」という項目が1つ目の鍵だ。これは、上のラジオ広告費には含まれていない、radikoなどのデジタルサービスにおける広告費を指す(恐らくだが、A&G!とかも含まれている)。
 それによると「ラジオデジタル」だけでは8億円というデータになる。もちろんradikoによってラジオ本体の広告市場が広がっているということもありえるので一概には言えないが、この数字はラジオ市場本体の市場規模のわずか0.6%にしかならない。これだと、なかなか苦しいものがある。

 もう一つ、今後のラジオを考える上で重要なのはコミュニティ放送の存在である。コミュニティの中にちゃんと根ざしている放送局は、内容も充実しているし、それに伴って地盤のスポンサーが多く付いてきてくれる。「前年に続いて堅調で、ラジオ広告費全体の押し上げに寄与した」という評価にもある通り、実はラジオ業界のエコシステムにとってはまずコミュニティ放送があって広域放送局があるぐらいの発想にしないと、広告を打つメリットはどんどんインターネットに奪われていくのではないか。地域に合わせた広告を打てるのは地域の放送局だけなのだから

 インターネット広告自体、個人情報を利用して成り立っている現状から、EUGDPRという強力な個人情報利用規制を掛けるなど徐々にルール化されているので、このままインターネットにおんぶにだっこで何とかなるほど甘くはなさそうだ。

有料コンテンツ業態を「味方」につける

 そういう前提の上で考えると、インターネットとの拡張では、出来ればCMで流れてきた商品をその場で見られるようにするとか、サービスやイベントのまとめを作るとか。技術的な問題も絡むけど、この辺りはテレビも出来る。
 ただ、今度は視聴者の面に立ってみた時、この連携はたぶん望まれない。

 映像コンテンツを例に取ると、もはや広告体系は別のところ(バナー広告など)に任せて、自分たちは有料課金でのコンテンツで利益を得るシステムになっている。有料課金の方が広告費という部分を考えなくて済み、潤沢な資金でコンテンツを生産できるということもあって、コンテンツの充実度などからNetFlixAmazonプライムが台頭している(バラエティ番組はまだわからないが)。
 もしかすると、ラジオ業界で先見の明があった人たちはその辺りを俊敏に察知していたのではないだろうか。つまり、音声メディアの有料コンテンツを売るようなライバルが出る前に、自分たちがインターネットでの配信を開始することが一番の得策だと考えついたと考えられなくもないのでは。それは実際に成功して、ライバルも現れずに一応は市場環境を保てているという点からも証明できる。

 これはつまり、有料コンテンツ業態を味方につけられたラジオは、なんとかまだ踏みとどまっているが、いつまでも足踏みしていたテレビはいつの間にか引き離されていてもおかしくはないという時代になったということだと思う。もっともこれは地上波のみの話で、BS/CSなどの衛星放送では結果が異なる(それでも減少しているのは……やっぱりインターネットとの連携がうまく取れてない)。

 ネット広告とマスメディア広告の市場規模逆転について補足すると、ネットの方が当然接触人数(回数)は多くなるし、食いついてきたところから釣り上げるための材料も豊富。間接的にしか波及できないマスメディアより広告主が食いつくのは当然と言える。
 ただ、広告に用いる個人情報に規制がかかることでレコメンド型広告の維持についてはグレーになりつつあるようだし、さらにはたかが一枚の写真程度のネット広告で興味を持ってもらうのって実は難しいのではないか。消費への動機づけはマスメディアが担っているというケースも想定されるので、この辺りはすぐに結論が出せない問題だと思う。